名古屋市営地下鉄東山線の伏見駅。夕刻以降の藤が丘方面の列車には、ほとんど座れない。伏見駅は名古屋と栄の二大都市に挟まれたビジネス街の中心にある。手前の名古屋駅、次の栄駅、そして伏見駅も、どの駅からも大量に人が乗り込んでくる。
つまり藤が丘方面に行く場合に座りたければ、名古屋駅以前から乗るか、栄駅で降りる人を見定めていなければならない。
外食の帰りだったと思う。運良く、僕と彼女は別々の席に座れた。対面のシートだった。栄駅を過ぎ、しばらくすると人が空いてきた。彼女の方を見ると、彼女の横に座っていた外国人女性の視線が気になった。一度伏せてちらっと再び見ると、やっぱり僕を見ていた。ただ、そこに直接的な感情はなく、あくまで自然体というか、なにか伝えたいことがあるような目をしていた。だから目が合った時、不思議な感じがしたことを覚えている。
その外国人女性は僕の隣の男性を指差し、次に自分自身を指差し、そして僕を指差し、最後に僕の彼女を指差した。微笑んでいた。そのジェスチャーが、
「お互いの席を変われば、お互いのパートナーの横に座れるよ」
という意味だとすぐに気付いた。なるほど。僕の理解した表情を察してくれたのか、口角が上がり、目が優しくなった。それを見て、僕はやさしい気持ちに包まれた。
同じタイミングでその場を立ち、お互いを見ることなく、席を入れ替わった。
座ると同時に、またアイコンタクトがあるのかなと思ったが、その外国人女性は旦那さんの肩に頭を寄せ、もたれていた。……可愛らしいな。ずっとそこへ行きたかったんだ。外国人の直接的な愛情表現にはどこか憧れを抱く。声をかけてくれても良かったのに、と思った。けれど、その女性の旦那さんも僕の彼女も寝ていたし、地下鉄内の声が響くことを理解しているようにも思えた。もしかして、日本、長いのかな。
人に救われてるなーと思う。一つ良いことがあれば、大抵のことは全部忘れてしまう。むしろ、良いことのために落ち込まされている? のかもしれない。地下鉄を降りて彼女にその話をすると、あきれたように「ポジティブでいいねあんたは」と言われた。
人生って素晴らしい。そう思えた。
コメント
初コメ失礼します( ˘ω˘ )
私のギスギスした心も素敵な話でホッコリしました